読売ジャイアンツ・菅野投手が見た<br>介助犬とユーザーの「絆」
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読売ジャイアンツ・菅野投手が見た
介助犬とユーザーの「絆」

読売ジャイアンツ・菅野智之投手 日本介助犬協会 会長 橋本 久美子 専務理事 髙栁 友子

2012年にドラフト1位で読売ジャイアンツに指名され、今や不動のエースとして活躍する菅野智之投手。昨年は最多勝、最優秀防御率、沢村賞などのタイトルを獲得した彼が2015年から実行しているのが、1勝ごとに10万円を日本介助犬協会に寄付するという支援活動です。宮崎キャンプに合わせて行われた今回の取材では、介助犬ユーザーで障がい者サーファーとして活躍する藤原智貴さんがサーフィンの練習をしている姿を見学していただいた後に、日本介助犬協会会長の橋本久美子と高柳友子との対談を行いました。
実家で飼うトイプードルを溺愛する”愛犬家”でもある菅野投手は、なぜ、介助犬に対する支援活動に至ったのでしょうか? そして、介助犬とサーファーであるユーザーとの姿を見た菅野投手は、いったい何を感じたのでしょうか?

思っていることを100%理解していない距離感の心地良さ。

思っていることを100%理解していない距離感の心地良さ。

橋本:本日はありがとうございます。今回の対談には、障がい者サーファーである藤原さんの介助犬「ダイキチ」も同席させていただきます。

菅野投手:ダイキチくん、ステイ! 大人しくていい子ですね。(笑)

橋本:グラウンドにいる菅野選手とは、雰囲気がぜんぜん違いますね(笑)。今日は、普段はあまり見ることのできない菅野投手の犬好きな側面についてお伺いできればと思います。

髙栁:菅野投手は、小さい頃から犬と暮らしていたのでしょうか?

菅野投手:実は、もともと犬が苦手だったんですよ。

髙栁:そうなんですか!?

菅野投手:小学校2年生の頃に、祖父の家で豆柴を飼い始めたんです。はじめは仲良くしようと思ったんですが、子犬ってじゃれついて甘噛みをしてきますよね。小学校の頃は、それが怖くて触ることもできなかったんです(笑)。けれども、ずっと一緒にいるうちに懐いてくると、だんだんかわいく感じるようになりました。そして、中学校2年生の頃には、自分の家でもトイプードルを飼うようになります。今では、もう14歳か15歳くらいで目も見えないおばあちゃん犬なのですが、まだまだ元気です。一人暮らしをしている現在でも、月に1回くらいは会っていますね。

橋本:初めは怖くて触れなかったのに、もはや、菅野投手にとって犬はかけがえのない存在になっているんですね。

菅野投手:そうですね。犬って、こちらが思っていることを100%理解してくれているかといえばそうではない。それが、僕にとってとても心地のいい距離感なんです。例えば、実家のトイプードルは、僕が落ち込んでいる時、そばに寄り添って甘えてくれます。そうすると、「気持ちを察してくれているのかな?」と感じてしまいますよね。もちろん、それは僕の勝手な思い込みかもしれません。けど、「察してくれてるかも」という距離感にいてくれることがとても嬉しいし、結果的に励まされることばかりです。

人と介助犬の深い強い結びつきが生まれるワケ。

サーフィンをする、障がい者サーファーの藤原さん。

橋本:人間の家族とは少し違った距離感から、犬が菅野投手の活躍を支えているんですね。ところで、この対談の直前には、パラリンピックを目指してトレーニングに励んでいる障がい者サーファーの藤原さんと、介助犬のダイキチの姿を見ていただきました。その様子をご覧になっていかがでしたでしょうか?

菅野投手:まず、「障がい者サーフィン」という競技を初めて知ってとても驚きました。海に入るのは、障がいを持っていない僕でさえ怖さを感じるのに、足が不自由な藤原さんが何の不都合もなくサーフィンができることには勇気を与えられます。そして、藤原さんが海から上がってきた時に、「待ってました」とダイキチが駆け寄っていきましたよね。藤原さんもダイキチを必要としているし、ダイキチも藤原さんを必要としている……。そんな2人の間にある「絆」の深さを感じました。

髙栁:ペットとして、家族としての犬の姿もかわいらしいのですが、さまざまな介助犬とユーザーさんの関係を見ていると、ペットとしてよりもさらに深い強い結びつきがあるんだろうなと感じることもしばしばです。

菅野投手:これまで、何頭かの介助犬に会ってきましたが、それぞれの介助犬が、違った役割を果たしていますよね。ダイキチならば、サーフィンで疲れた藤原さんの心と体を癒やしてくれています。同じ介助犬でも、ユーザーに合わせた性格になっているんだなと感じました。

髙栁:ユーザーさんと介助犬とは、だんだんとお互いのタイミングやペースを理解してきて阿吽の呼吸になってくるんですよ。久々にお会いするユーザーさんに冗談半分で「顔が似てきましたね」と言うとなぜか喜んでくれたりもします(笑)。ところで、菅野投手は2015年から、日本介助犬協会に対しての寄付を継続していただいています。どのような気持ちから支援されているのでしょうか?

菅野投手:僕は、読売ジャイアンツという伝統あるチームに所属して、情報発信をすることができる立場です。それは、とても大きな強みだと考えています。残念ながら、介助犬の知名度はまだまだ低いのが現状ですよね。けれども、ファンの人に「ジャイアンツの菅野が活動している介助犬とはどういうものなんだろう?」と興味を持ってもらい、インターネットで調べるだけでも介助犬の輪が広がっていく。それは、僕としてもとても誇らしいことです。介助犬に限らず、さまざまな社会福祉活動に対して、読売ジャイアンツ全体、さらには野球界全体で積極的に目を向けていきたい。少なくとも、僕が現役でいる限りはそういった支援活動を継続していきたいですね。

サーフィン見学後、障がい者サーファーの藤原さんとダイキチを囲んで。

PROFILE

菅野智之

菅野智之

1989年10月11日生まれ。東海大相模高から東海大学へ進学後、4季連続で首都大学リーグの優秀投手を受賞、第37回日米大学野球選手権大会日本代表や第25回アジア野球選手権日本代表に選出される。13年、ドラフト1位で読売ジャイアンツに入団。最優秀防御率、最多勝利、最多奪三振などのタイトルを獲得し、ベストナインや沢村栄治賞などにも選出されている。2017 ワールド・ベースボール・クラシック日本代表。

橋本久美子

橋本久美子

元内閣総理大臣故橋本龍太郎の妻。二男三女の母。日本ラテンアメリカ婦人協会会長、国際なぎなた連盟会長を務める。平成19年6月1日から社会福祉法人日本介助犬協会(当時は全国介助犬協会)会長に就任。交友の深いジュディ・オング氏(歌手・女優・木版画家)を「介助犬サポート大使」に迎えた。好きな言葉は「和顔愛語」。

髙栁友子

髙栁友子

医学博士。介助犬による障がい者の社会参加推進を目的に1997年日本介助犬アカデミーを設立し、身体障害者補助犬法の成立に貢献。2003年、社会福祉法人日本介助犬協会(2007.8全国介助犬協会より名称変更)を設立、2007年事務局長、2017年より同専務理事。医師の立場から介助犬の育成支援・普及啓発活動等を行っている。

写真・豊島望 文・萩原雄太 編集・MULTiPLE Inc.
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